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てきすとあっぱーかっと投稿
※『腹打ちに目覚めた理由、そして』
第2章


「ボクシング?」
ああ、と洋祐は答えると、俺の前でファイティングポーズをとり、
シャドーボクシングの真似事をしてみせた。
「いつからやってるんだ、ボクシング」
「小六の時から、お前に言ってなかったっけ?」
「初めて聞いた」
「そっか、じゃあ俺はここで。ジムはこっち側を通らなきゃいけないから、じゃあな」

背を後ろに、手を振りながら洋祐はそう言うと、帰り道の途中にある角を曲がっていった。
俺は洋祐の、じゃあな、という挨拶にも答えられない程に興奮していた。
それはボクシングをやっている、という洋祐の言葉に起因していることは明らかであった。
実を言うとそれまで俺は、どうやって洋祐に腹を殴ってもらおうか、と悩んでいた。
まさかいきなり腹を殴ってくれとは、口が裂けても言えない。
そこには当然、合理的理由が必要だ。それがなければ変態扱いされ、
俺と洋祐とのこれまで築いてきた友情関係を無に帰することにもなりかねない。
勿論、腹筋を鍛える為に腹を殴って欲しい、という大義名分は一応用意していたのだが、
これとてあまり自信は無かった。洋祐に、じゃあ腹筋をすればいいじゃないか、
と切り替えされたらそれまでだからである。そうなれば洋祐に腹を殴ってもらう機会を失う羽目になる。
あまりしつこく迫ればやはり前記の様に変態扱いされてしまう。
だがしかし、洋祐がボクシングをやっているとなれば話は別だ。
腹筋を鍛える為という大義名分だけでなく、例えばボクサーのパンチを体験してみたい、
という大義名分でも十分納得してもらえるからだ。

さて、これからどうするか。洋祐がボクシングをやっているという、千載一遇のチャンスをどう活かすか。
家に着いた俺はしばし考えながら、洗面所でうがいをしていて、はたと気づいた。
そう、今日は金曜日。明日は土曜。そして明後日は日曜日、暇が出来る。
俺は吐き出すべき水を思わず飲み込んでしまった。
翌日、俺は学校へ着くなり洋祐の元へ駆け込んだ。
「なあ洋祐、明日、お前暇か?」
「明日?ああ暇だけど」
「久しぶりに休日を一緒に遊びたいなって思ったから」
「そっか、じゃあ俺の家に来ないか。明日は親父もお袋もいないんだ、どうかな。」
思わぬ展開に俺は驚いた。実は俺の方から家に誘うつもりだったからだ。
さすがに屋外で腹を殴ってもらうことには気が引けていたからだ。
だが洋祐の方から誘ってくれるとは。俺は即座にOKした。
今日こそ授業が終わるのを遅く感じたことは無かった。

翌日、俺は洋祐の家を訪ねた。洋祐の家に上がるのも久しぶりだな、
という感慨に耽りながら俺はチャイムを鳴らした。すると間もなくして洋祐が顔を出して、
俺を家へと招き入れた。お邪魔します、といって俺は玄関で靴を脱いで中へと入っていった。
洋祐の部屋は二階にあった。部屋に入ると、壁に掛かっていた黒色のボクシンググローブが
俺の目に飛び込んできた。かなり使い込まれている風情であった。
しかもかなり太い。何オンス位あるのかな、と思っていると、まるで俺の心を見透かすかのように
洋祐はボクシンググローブを手に取った。
「結構、古いだろ」
洋祐は俺にそう語りかけてきた。
「ああ、でもそれだけ練習してる証拠って訳だろ」
まあな、と洋祐は少し自慢げに答えた。さてと、そろそろ本題に入るとするか。俺は腹を括った。
「なあ、ボクシングのトレーニングって厳しいのか」
「ああ」
「中でも、どんなトレーニングが一番きつい?」
いささか作為的な感じがしたが俺はそう訊ねた。
「腹筋トレーニングかな」
驚いた。まさかいきなりヒットするとは。
「なんできついの?ただの腹筋だろ」
我ながら己の白々しさに、俺は呆れた。
「いや、正確に言うと、打たれ強くする為のトレーニング。要はパートナーに腹を殴らせるんだ」
「思いっきり、やられるのか?」
「勿論」
「あのさ、俺も体験してみたいな。その、打たれ強くする為のトレーニングとやらをさ。
いや、それにそのプロのボクサーのパンチってものを体験してみたいなあって」
「いいぜ、じゃあ両手を頭に組んで」
洋祐はそう言うとグローブを両手に嵌めた。まさかこんなにも早く夢が実現するとは。
だが同時に俺の胸のうちでは言いようのない不安さが去来していた。
勿論、それは殴られることに対するものでは無かった。
そんなことを考えているうちに、グローブを嵌めた洋祐は、じゃあいくぜ、
といっていきなり俺の腹にボディフックを打ち込んできた。思いっきりミゾに入った。
俺は思わず息が出来なくなった。いや正確に言えば息を吐き出すことが出来なかった。
最高の快楽になるはずであった。だがちっとも嬉しくなかった。その理由に俺は、はたと気づいた。
俺が腹打ちに目覚めた理由、それは殴る方、殴られる方、双方に愛情がある故に快楽を得られる。
しかしそのどちらかでも愛情が無ければ快楽を得ることは出来ない。
俺と洋祐との間には果たして愛情があるのだろうか?答えはNOと言わざるを得なかった。
なぜなら俺は自身の快楽を得るために腹打ちに興味も無い洋祐を、俺は利用しているのだ。
これではイジメの為に腹を殴っている人間共と大差ないではないか。
今やっている、いや洋祐にやらせていることは、洋祐に対する重大な裏切り行為ではないのかと。

「どうした、気持ち悪いか?」
俺の表情を見て、洋祐は心配そうに訊ねてきた。
「いや、そうじゃない。本当は俺、腹を殴られるのが好きなだけなんだ。
昨日、お前がボクシングをやっているって聞いてさ。俺、お前に腹を殴ってもらえるって思って、
嬉しくて、お前を利用したんだ。ゴメン」
俺は正直に告白した。そうすることで俺は罪の意識から逃れようとしたのかもしれない。
きっと洋祐は俺を軽蔑するだろう、そう考えていると、洋祐は意外なことを口にした。
「何だ、そうなんだ。だったらそう言えば良かったのに」
「でもそんなこと言ったら、お前におかしな奴って思われるんじゃないかって思ってさ。
お前は俺の大事な親友だろ。親友にそんなこと思われたくなかったんだ。だから、ぐっ」
洋祐はいきなり俺のボディにパンチを打ち込んだ。
だが、そのパンチには愛情が感じられたのは俺の気のせいだろうか。
「バーカ、親友だったら、なんでも正直に言えよ。それが本当の親友ってもんだろう。それに」
「それに?」
俺は息も絶え絶え、洋祐に訊ねた。
「俺も腹打ちが好きなんだ」

次回へ続く…。

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